計画研究班【C01】
人の持続的な適応を引き出す人工物デザイン方法論の確立
本領域の基本的方法論でもある,「人間の認知特性のモデリング」,「ユーザインタフェースの実装」,「実験的検証」という3つのフェーズに沿って,実際のインタラクションデザインを行い,その有効性を現実的な環境における参加者実験により検証する.
人間の認知特性のモデリングは,特に適応に注目したモデリングを目指しており,具体的には,人間がユーザ適応するアルゴリズムとゲームなどのインタラクションを持った場合にどのように相手アルゴリズムを理解するのかという適応アルゴリズム理解,商品説明を行う擬人化エージェントの外見,動作に対するユーザの選好と購買意欲の関係,タスク処理の集中度に応じて変化する周辺視野のモデルなどが考えられる.なお,領域全体の研究の進行とともに,A01班,A02班,B01班で得られた様々な他者モデルを人間の認知特性モデルとして取り込む予定である.また,インタラクションデザインの応用対象として考えられるものは,メールの着信,アプリケーションの更新などをPCディスプレイ上で行われる情報通知や適応ユーザインタフェースのアルゴリズム開発とユーザインタフェースデザインなどがある.
構成メンバー
研究者名 | 役割 | 研究内容 | Web |
---|---|---|---|
山田 誠二 (国立情報学研究所) |
研究代表者 | 研究統括,計画立案 | link |
寺田 和憲 (岐阜大学) |
研究分担者 | 認知モデル構築,実験計画 | link |
小林 一樹 (信州大学) |
研究分担者 |
インタラクションデザイン,実験計画,実験 システム構築 |
link |
小松 孝徳 (明治大学) |
連携研究者 | 実験計画と実施 | link |
船越 孝太郎 (HRIジャパン) |
研究協力者 | 工学的応用 | |
松井 哲也 (国立情報学研究所) |
PD研究員 | モデルベースHAI |
これまでの主要な研究成果 概要
(1) 適応認知における認知バイアスの分析
人間の適応認知モデルを構成し,適応ユーザインタフェースへ応用することを目指した.実験環境として,相手の意図を推定し合うマークマッチングゲーム(下図)で人間と適応アルゴリズムが対戦する.このとき,人間が相手コンピュータのアルゴリズムをどのように理解するかについて,マルコフ性バイアス,決定論バイアス等の認知バイアスを仮定し,実際の参加者の行動からそれらのバイアスの妥当性を実験的に検討した.その結果,間接的ではあるが,提案した3つのバイアスの存在を支持する結果が得られた.
適応認知の認知バイアス自体に先行研究がなく,本研究で得られた認知バイアスとそれを支持する実験結果は独創性の高いものであると考えられる.

(2) 周辺認知テクノロジーPCT (Peripheral Cognition Technology)による情報通知
注意の周辺での変化に対して人間の認識が鈍ることをインタラクションデザインに利用する周辺認知テクノロジーPCTの開発を行った.認識可能な周辺視野が集中により狭くなるVFN(視野狭窄)効果を利用して,ユーザモデルレスな情報通知を行うペリフェラル情報通知を実装した.VFN効果の生じるVFN領域を参加者実験により構築し(下図のグレー領域),それに基づきペリフェラル情報通知を実装した.そして,実環境に近いPCデスクトップ環境において参加者実験を行い,有効性を検証した.
その結果,VFN領域に情報通知をフェイド表示するだけで,タスク集中が途切れたときにタイミング良くユーザが通知に気付くという情報通知がPCTにより実現できることがわかった.この結果は,従来のペリフェラルディスプレイとも異なる独創性の高い方法である.

(3) オンラインショッピングの推薦エージェントのインタラクションデザイン
オンラインショッピングで商品を推薦する擬人化エージェントPRVA (Product Recommendation Virtual Agent) が推薦効果を高めるには,ユーザに信頼してもらうことが必須となる.そのために,エージェントからユーザへ情報を表出する(遷移オペレータ)ことで,信頼感を高めるようにユーザの内部状態を遷移される方法を開発した.まず,ユーザの信頼状態を感情と知覚知性の2値パラメータで記述したモデル(下図)を提案した.そして,このモデルに基づいて,その2つのパラメータを両方とも高く遷移させることで,信頼関係を高めることが可能な遷移オペレータを開発した.また,MMDエージェントで実装したPRVAとKinect,アイトラッカーTobiiを利用した実験環境を構築した.PRVAと人間の信頼モデルは,新規性を有すると考える.

【公募研究】
時計の針の進行速度制御による単純作業パフォーマンス向上手法の検討(櫻井)
本研究では,「絶対的な時間を示す装置」と認識される時計の針が右方向に回転する場合のみ,その針の進行速度と単純作業の作業効率が正の相関関係を持つことを示した.研究成果は,日本バーチャルリアリティ学会論文誌およびAugmented Human 2015 で発表した.