平成26〜30年度 文部科学省 科学研究補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)

「認知的インタラクションデザイン学」とは

 他者モデルによるユーザの心的状態推定という認知科学的手法をベースに,ユーザに自然に適応する人工物を設計するためのデザイン原理ならびに基礎技術の総称を,認知的インタラクションデザイン学と定義しました.

本領域の目的

 人と人とがコミュニケーションする際には,対話相手が,どのような状況下だと,どのように発言・行動するはずだという,対話相手の行動を理解・予測するための心的モデル,すなわち他者モデルが重要な役目を果たしていると考えられます.初対面同士の会話であれば,お互いに対話相手に対する他者モデルをもっていないため,会話がかみ合わないこともあり得ます.他者モデルによるこのようなインタラクションの円滑化という現象は,人同士のコミュニケーションのみならず,人と伴侶動物,あるいは人と人工物との間のインタラクションにも見られると考えられます.

 本研究では,他者の行動を理解・予測するために必要で,状況に応じて変化する他者モデルを認知科学的に検討し,それを人に自然かつ持続的に適応できる人工物の設計と構築に応用することで,認知的インタラクションデザイン学の構築を目指していきます.特に,人対人,人対動物,人対人工物に共通する認知プロセスを解明し,他者モデルをアルゴリズムレベルで実現することを目指していきたいと考えています.    

キーワード

認知科学,人工知能,ユーザ適応型インタフェース,Human-Agent Interaction

期待される成果

 この研究プロジェクトでは,3つの目標を掲げます.

  1. 認知的インタラクションデザイン学の確立
    →D. Marrの計算論的視覚論のようなアルゴリズムレベルでの実現を目指す.
  2. 人=動物インタラクションに関する認知科学の確立
  3. 人と自然に,かつ相互に適応する人工物の実現
    →自動カスタマゼーション/パーソナライゼーションの実現を目指す.

 これらの目標の実現を通して,例えば次のようなモノやコトが私たちに身近な存在になってくると考えています.

  • 子どもの遊び相手をするロボット
  • 盲導犬の代わりをするロボット
  • 人に適応する電動車いす
  • オンラインショッピングにおけるコンシェルジュ
  • ドライバーの意図を読むカーナビゲーションシステム

 これらを実現するためには,認知的インタラクションデザイン学の確立が必要であると私たちは考えており,この研究は,少子高齢化社会において高齢者や生活弱者を支援し,人手不足の問題解消にも貢献することが期待されています.