計画研究班【A02】

子ども=大人インタラクションの認知科学的分析とモデル化

 成人=子ども,ロボット(成人役)=子ども,成人=ロボット(子ども役)間のインタラクションをそれぞれ観察することで,人がロボットにもつ他者モデルの姿を知ると同時に,ロボットがインタラクションのために持つべき人間モデルの姿をさぐる.特に,インタラクションの各瞬間の行動決定に必要な他者モデルの使い方と,それを可能とする他者モデルの内容について力を入れて探っていく.

 子どもを想定することで,成人よりは単純な他者モデルの姿が見えてくると予想され,それにより「動物-子供-成人」という段階的な他者モデルの変化を探っていくことができる.具体的には,他者モデルの計算モデルを構築し,シミュレーションによりその性質を明らかにすると同時に,実際の成人=子ども,ロボット=子ども,成人=ロボットの各インタラクション実験を行いモデルの検証を行う.また,動物でも同様の設定で実験・観察可能な実験を行うことで,動物の他者モデルとの直接的な比較を行うことも検討する.

(例:片方が危険を察知した場面での成人=子ども間のインタラクションを,盲導犬=人と比較する).

構成メンバー

研究者名 役割 研究内容 Web
 長井 隆行
(電気通信大学)
 研究代表者 研究統括,計画立案
インタラクション実験の実施と分析
link
岡 夏樹
(京都工芸繊維大学)
研究分担者 他者モデル相互作用のモデル化 link
中村 友昭
(電気通信大学)
研究分担者 学習ロボットへの応用 link
大森 隆司
(玉川大学)
連携研究者 他者モデル相互作用のモデル化 link
岩田 恵子
(玉川大学)
連携研究者 子ども=大人インタラクション実験の実施  
深田 智
(京都工芸繊維大学)
連携研究者 子ども=大人インタラクションの認知言語学的分析  

これまでの主要な研究成果 概要

1)子供-大人インタラクションにおける他者モデルの確立

1-1)後述する保育士がロボットを遠隔操作し子供と遊ぶ実験結果を解析することで,保育士がどのように子供に対する他者モデルを持ちそれを実際に運用しているのかについて,現象的な側面を明らかにした.この際,保育士は子供のパーソナリティを大まかに分類し,その推定に応じてモデルや戦略を切り替えて素早く子供に適応した振る舞いをしていることが分かった.

1-2)他者モデルの計算モデルとして,確率モデルをベースとしたモデルを提案した.このモデルを有する2 体のエージェントが,尤度最大化と強化学習の組み合わせで,他者モデルを学習し,インタラクションを円滑にすることが可能となることを示した.また,パーソナリティの異なる者同士のインタラクションの経験が,他者モデルの多様化を生み,他者のパーソナリティを大まかに分類することでモデルを素早く学習できる可能性を示した.

 

2)インタラクションダイナミクスの計算モデルの確立

 インタラクションダイナミクスには,短期的な適応と長期的な発達の視点があり得る.本課題はこれらを共に対象にするが,ここまでは特に,子供の社会性の発達という視点から,長期的なインタラクションダイナミクスについて検討を進めた.まずこのような観点でモデル化を行うために必要なデータを,後述するリトミックと呼ばれる子供の情操教育の場で計測することとした.現状では計算モデルの確立には至っていないが,リトミックにおけるインタラクションの現象的解析を行い,次のようのことが明らかになった.一つ目は,リトミック活動の中で動きの模倣に着目すると,その場には,頻繁に模倣される場を引っ張る子供と,模倣をすることの多い子供が存在することが分かった.そしてそうした存在は,リトミック活動の回数を重ねることで,ある種均一化していく.また,インストラクタの影響力も回数を重ねるごとに小さくなって行く.二つ目は,性格と振る舞いにある種の相関があることである.場を引っ張るリーダー的存在は自制力がないといった一般的にはネガティブな項目と相関が高く,模倣をすることが多い子供は,社会性の高さを示す一般的にポジティブな項目と相関が高い.これらのことは,リトミックの場に,社会性の発達がある程度表面化していることを示している.今後,こうした現象の裏にあるモデルを構築してゆく.

 

3)モデル構築や実証のための実験パラダイムやセンシング・データ解析手法の確立

3-1)実験のパラダイムとして,Wizard of Oz (WOZ) 法を使うことを提案しそのシステムの構築,大規模実験を行った.この実験パラダイムは,ロボットに搭載されたカメラ映像を操作者のヘッドマウントディスプレイに投影し,操作者の頭の動きをロボットと同期させ,操作者の音声を認識した上でロボットから合成して出力することで,身体的にはロボット,知能的には人間という状態を作り出すものである.

 また,ロボット視点映像やロボットの操作などを記録することで,操作情報だけでなく,対象となる子供の視線や位置関係なども詳細に解析することが可能となる.これにより,1-1)の成果を得た.

3-2)上述の実験パラダイムでは,集団を相手にすることが困難である.そこで,リトミックという子供たちの情操教育の場で子供たちの動きを計測することで集団としてのインタラクションダイナミクスを観測する実験を提案した.現在までに実際のリトミック場面を10 セッション(30 分/セッション)計測しその解析によって,2)の成果を得ている.この実験で重要なのは,子供たちの動きをいかにとらえるかという計測手法である.現在は総括班で開発しているモバイル版ソシオメータを利用している.また,非接触で計測するために,kinect やレーザーレンジファインダを用いた計測手法を開発している.さらにこの実験を特定の保育所で行うことで,決まった子供たちのグループを縦断的に計測できる.

 

3-3)集団の動きの解析手法として,相互相関から模倣関係のネットワークを構築し,そのネットワークを解析する手法を開発した.この手法によって,2)の研究成果を得ることができた.

  

以下は,計画当初とは違った視点で発展した研究成果について述べる.

 

4)情報保育学の設立

 リトミックの研究成果が示していることは,幼児期の保育の問題と可能性である.従来,保育と発達の関係性は,研究者の主観的な観察に基づいて研究されてきたが,子供たちをどのように育てるかを,客観的な計測データに基づいて議論することが重要である.こうした考えから『情報保育学』というアイディアが生まれ,産総研AI センターとの連携で,こうした新しい分野を設立する試みを開始した.

 

5)応用研究の手がかり

 子供ロボットインタラクションの研究は,育児支援ロボット『ChiCaRo』の開発に結び付いた.このロボットには,3-1)の実験パラダイムや1-1)の知見を応用している.このロボットの実応用を含め,複数の企業との共同研究を開始することとなった.

【公募研究】

人間と人間,人間とロボットの主観のシンクロ(間主観性)にかかわる概念モデルの提案(高橋)

  ロボットが人間に近い知能をもったと定義するためには,個として高い知能をもつだけは不十分であり,人間と間主観的状態を構築する必要がある.その概念的整理として,月に対して抱く二者間のイメージのシンクロについての概念モデルを構築した.(図の左は真の間主観的関係性を,右は偽の間主観的関係性(既存の人工知能)を示す.)

 

 

これまでに発表された主要な研究業績については,こちらをご覧ください. 

Last update: 2016/09/23